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心理学/ストレス対処

ストレス対処の達人への道~米国心理学会の調査から見る「本当に効果のある」ストレス解消法とは?

みなさんは、いつも疲れやストレスがたまった時どうしてますか?どうやってストレスに対処したり、解消したりしようとしていますか?

甘いものやお菓子など好きなものを思う存分食べること?お酒を飲むこと?寝ること?好きな音楽を聴いたり動画を観たりすること?趣味に没頭すること?誰かと話すことでしょうか?きっと人によっていろいろですね。その時の状況とかによっても違うかも知れません。僕は猫を撫でること、愚痴ること、ギターやウクレレを弾くこと、好きなものを食べること(疲れるといつも、めちゃくちゃラーメンが食べたくなります)、運動やヨガ、お風呂にゆっくり入ること、寝る…などなどその時によってもいろいろです。

世界的に有名な心理学の団体、米国心理学会(American Psychological Association)の調査(約7000人の成人対象)によると、実はストレス解消法には効果的なものと、効果の低いものがあるそうです。中には長い目で見ると不健康になったり、逆にストレスになってしまうような「解消法」もあります。調査は2008年のものですが、今でもそのまま使える内容だと思います(※調査の内容などを詳しく知りたい方は一番下の「おまけ」も参照)。日本人のデータではないのでもちろん文化の差などはありますが、人として共通の特徴を知る時にはとても参考になります。こういうたくさんの人を対象にした統計的な調査はあくまでたくさんの人の傾向なので、当てはまるかどうかはもちろん個人差があります。でも、多くの人がそうだってことは、知っておくと少し役に立つかもしれないぞ、と思います。

ストレス解消法、みんなのやり方は?(米国心理学会の調査より)

まずはこの図を見てみてください。

これはアメリカの人たちが普段どんなストレス解消法をしているか(多い順)の図です。多い順に音楽を聴く(52%だから半分くらいの人がそうしてるということ)、エクササイズ/ウォーキング、読書、家族や友人と過ごす、TVや映画を毎日2時間以上観る、寝る、ゲーム/インターネット…と続きます。自分と比べてみるとどうでしょうか?音楽好きな人は、ふだん結構聴くかもですね。最近は動画や定額サービスなどで聴いている人も多いかもしれません。今度は、実際やってみた時「効果があると感じた人が多い順」に並べてみるとこうなります。

多くの人が効果的と感じたのは…?(米国心理学会の調査より)

お祈りとか教会や宗教の集まりに行く、というのが上位にあるのはいかにもアメリカらしいところかもしれませんが(それについては後でまた説明します)、注目してほしいのは多くの人がやっていることが「効果的」かどうかはまた別だってことです。別に、割合(%)が少ないからと言って全然効果がないわけでもないし、それでストレス解消になる人ももちろんいます(きっとみなさんもそうですよね?)。でも、ここでは話を分かりやすくするために、「50%(半数)以上の人が効果がある」と答えたものを「効果が高い」、そうでないものを「効果が低い」と考えてみます。最初の方の図を使って、ひとつにまとめてみるとこんな感じになります。

効果的なストレス解消法

実際にやってみた時にストレス解消の「効果の高い」と答えた人の多かった項目を見てみると「音楽を聴く」「エクササイズ/ウォーキング」「読書」「家族や友人と過ごす」「お祈り」「凝った趣味(好きなことに熱中する)」「教会や宗教の集まりに行く」「スポーツ」「マッサージやスパに行く」「瞑想/ヨガ」「メンタルヘルスの専門家に会う」などが挙がっています。

「音楽」「読書」「凝った趣味」というのはきっとイメージしやすいですね。音楽や本や趣味など好きなことに熱中するとストレス解消になる人は多そうに思います。趣味にはガーデニングやDIYなど何かを作ることや、ダンスや絵や演奏などのクリエイティブに表現することなどなど、いろんなことが入りそうです。

「エクササイズ/ウォーキング」「スポーツ」「瞑想/ヨガ」という運動やエクササイズももちろんストレス解消の効果は高いと言われます。筋トレも有酸素運動も、運動なら何でも入ります。運動が苦手、嫌いという人からすると「信じられない!」というか、まあやりたくないでしょうね(笑)

「お祈り」や「教会や宗教の集まりに行く」というのは僕なりに言い換えると「何か大きなものとつながる感覚」という感じをイメージします(そういうことをスピリチュアリティと言います)。それは何も宗教的なことでなくとも、雄大な自然とのつながりなどもそうです。また最近心理学の分野では「感謝すること」や「自分や人に思いやりを向けること/親切にすること」のストレス解消効果やうつや不安の予防/改善効果が注目されているのですが(※文献1)「お祈り」というのはそれに少し似ているなと思います。あとはそれこそ日本であれば自然の中で過ごすということもストレス解消法として多いかもしれません。上の調査では項目にありませんが、ストレス解消効果はとても高いとされます(※文献2)。

家族や友人と過ごす」というのは、これはもちろん仲悪すぎない場合です(笑)仲が悪いとストレスですから。気の置けない人なら誰でも良さそうです。この人と会うとなんか元気出るなぁ、とか安心して話せるなぁという人がいるのって、ありがたいですよね。家族や友人や子どもなどと何かを一緒にするのもいいですね。あとアメリカではやっている人の割合が少ないですが、動物と過ごすのもストレス解消効果は高いです。うちは猫が4匹いるのですが、玄関空けた途端にめちゃくちゃ癒されます。まあ一緒に暮らしていると困ることも、あるんですが(笑)

メンタルヘルスの専門家にかかる」人が少ないのは、まあそうでしょうね(笑)メンタルヘルスというのはこころの健康、みたいな意味です。日本だったらきっともっとそうだと思います。メンタルヘルスにかかわる仕事をしている自分で言うのもなんですが、疲れたりストレスが溜まったら、まずはそういう専門家のところより誰かに愚痴ったり、マッサージとか温泉に行きますよね。僕だってそうです。「マッサージやスパ(温泉)」に行くというのはアメリカでは9%ですが、日本だともっと割合が高いんじゃないかなと思います。

効果の低いストレス解消法

一方で、「やってみたんだけど思ったほどストレス解消にはならなかったなぁ」と(たぶんそんな感じで)答えた人が多かった「効果の低い」項目は、「TVや映画を長時間(毎日2時間以上)観る」「寝る」「ゲーム/インターネット」「食べる(やけ食い)」「お酒」「買い物」「タバコ」「だらだらする(何もしない)」「ギャンブル」などでした。

何度も言いますが、これはあくまでも多くの人の傾向なんであって、ストレス解消効果は人によっても、その程度や内容によっても違います。でもまあ敢えて、比べてみるとそういう感じということです。こっちの項目、あまり健康に良さそうじゃないですよね(笑)。人によってはストレス解消をするつもりが、その時は良かったけど、後で後悔したり、罪悪感を覚えるみたいなこともたぶん多いです。「あー、美味しかったけど、また太っちゃうわ…」とか「こんなにお金使っちゃった…」「飲み過ぎた…」みたいな。一方でストレス解消に効果的だと多くの人が答えた項目の方が、なんだか健康な感じがしませんか?「いかにも健康そう」ということがそもそもなんか嫌な人もいるかもしれませんが(笑)「ふんっ、不健康だっていいじゃないか、好きなことして何が悪い!おれの人生だぜ」みたいな感じ、ファンキーでいいですよね。

ここで大事なのは「じゃあどのが一番いいの!?」ってことではなくて(だってそれは人によっても違うと思うので)効果的な方法と効果の低い方法の違いは何だろう?」「健康的な方法ってどうして健康的なの?」ということです。

知っておきたい「効果的な方法」と「効果の低い方法」の違い

実は多くの人にストレス解消「効果の低い」とされている方法(食べる、買う、お酒、たばこ、ギャンブル…など)は、脳が「手軽に」満足を得やすい方法だと言われています(※文献3)。

脳には報酬回路というのがあって、今までに気持ちの良かった刺激(報酬)を覚えています。ストレスを感じた時には自己防衛反応としてその回路が働いて、その刺激を得ることで手っ取り早くそのストレスを解消しようとします。ストレスを感じた時、例えばお菓子とのことを考えたり、それを売っているのを見ると、脳の中ではドーパミンというのが出て「欲しい!」「食べなきゃ!」と頭が一杯になって、それを手に入れるための行動に駆り立てられます。だから疲れたりすると甘いものが食べたくなったりするわけです。それで「うまいなぁ、このために生きてるんだよなぁ」とかってなります。便利な仕組みですよね。日ごろ誰でもみんな、多かれ少なかれこういう感じでストレス解消してると思います。もちろん人によってストレスを感じた時にしたくなること「なにで手軽にストレスを解消できるか」は違います。みなさんの場合は何でしょうか?

だけど実はこういう報酬回路(ドーパミン)が強く関係したストレス解消法には副作用があります。それは、その回数が多くなるとだんだん依存度が上がっていく(自分で量や頻度をコントロールできなくなっていく)ことと、ストレス解消法の種類によっては長期的に見ると不健康や自分の人生を損ねてしまう可能性があることです。

効果の低いストレス解消法の「副作用

①依存度が上がる(自分でコントロールできなくなる)

②長期的に見ると不健康になる、人生を損ねる可能性がある

お菓子やラーメンを食べすぎたら太っちゃうし、お金だってかかります。買い物やギャンブルなんかもそうですよね。お酒やタバコは健康を損ねることが数々の研究から言われています(こういう話を聞いてストレスを感じると、余計飲んだり吸ったりしたくなるわけですが…)。また、この報酬回路に関係するドーパミンは「欲しい」という欲求を高めてくれるけど、実はそれ自体は満足感を与えてくれるわけじゃないことが研究からわかっています(※文献3)。その手軽なストレス解消法をやっている間はストレスを忘れられたり、それをやっている瞬間は満足感があっても(最初の一口ってめちゃくちゃおいしいですよね)、それが終わってしまうとむなしくなったり、後悔したりしてしまうわけです。こういう手軽なストレス解消法はたくさんあるし普段それに頼っていることは普通でそれはもちろんいいのですが、バランスや付き合い方が大事です。

一方、ストレス解消の「効果が高い」方法というのは、すぐには効果が感じられない(感じられなさそうに見える)方法です。運動や読書って、疲れている時にするのは結構大変だし、なんというかちょっと頑張らないといけませんよね。人によっては「疲れている時運動するって何?」って感じですよね。「こんなに疲れてるのに、エネルギーのあることできるかよ」みたいな(笑)。温泉もマッサージも外出して行かないといけないし、人に会うのもエネルギーが必要です。だけど、実はこういう「積極的な」ストレス解消法は、やっているうちに脳内で実際に気分を良くしたり、高揚させるホルモンが出たり、実際に体内のストレスホルモンを減らして、身体のリラックスを引き起こすことがわかっています(※文献3)。ちょっとエネルギーがいるだけに習慣にするのが大変だったりしますが、その代わり依存は比較的しにくいです。

比較的受け身の方法(食べる、飲む、買う、観る…)はすぐに快楽が得られるけど効果が低く、積極的な方法(運動や人と話す、趣味やいろんな活動など)はすぐに効果は感じられないけど、やっているうちに本当に元気が出てくる、という風にも言えるかもしれません。

「効果の高い方法」ができなそうな体調の時は?

「ちょっと頑張る方法の方が効果が高い」と言われても、えーって思う人もいますよね。だって疲れている時は、多分そんな気になりませんから。

個人的な意見としては、いつも「効果の高い」方法をやる必要はないと思っています。できる人はそうすればいいのですが、そうできないときはちょっと健康に悪そうな方法だっていいんです。というか良いも何も、誰だって大抵そうしちゃいます。疲れているときは寝たりボーっとするしかない時があります。スマホも充電が切れたら、充電がたまるまでしばらく電源入らないですよね。

動ける時やちょっと元気な時、そうしてみたい気分の時に少しずつ効果の高い方法をやってみるといいです。運動や読書や趣味や人付き合いや自然の中で過ごすなどの積極的な方法はちょっとずつでも確実に身体や心が健康になっていきます。ロールプレイングゲームで最初の町の周りで(最初は弱い)敵を倒して経験値を稼いでレベルを上げていくような感じで、自分のレベルに合わせて少しずつやっていきましょう。しばらく休んでも前の経験値は無駄にはなりません。

不健康そうな方法をとった後や健康な習慣をやめてしまった時に「自分を責めない」方がその後健康な方法を続けられる可能性が高い、ということも言われています(※文献3)。そういう時は「まあ今日は仕方ないか。また今度やろう」とか思って気にしないようにしましょう。しばらく休んでたのに健康な方法をまた始められたら「お、また始められたなー。えらいな」みたいに思いましょう。

ストレス解消法/対処法はその時の体調や状況に合わせて」が僕の思うコツです。そういう意味で言うと、その時々に合わせて選んで使えるように、ストレス解消法は種類をたくさん持っておくとよいということになります。

自分なりのストレス解消法リストを作ろう(ストレスコーピングレパートリー)

自分なりのストレス解消法のリストをあらかじめ作っておくと役に立つと言われています(※文献4)。心理カウンセリングや精神科のリハビリなど、または一般向けの研修やメンタルヘルスの講演などでもよくお勧めします。

そういうのをかっこよく言うと「ストレスコーピングレパートリー」と呼ばれたりします。まあ名前はどうでもいいんですが(笑)。リストを作る時のコツは、どんなものでもいいのでなるべくたくさん挙げておくこと。文献4では「最低100個は」(!?)みたいに書いてあります。「好きな曲をかけて踊り狂う」「好きな人とデートする妄想にふける(1人2役もOK)」「ぬいぐるみに相談する」みたいなちょっと人前であまりできなそうなものでも構いません。

疲れた時やストレスがたまると、大抵はついお決まりの(手軽な)方法をしてしまいがちですが、リストを財布の中とかスマホのメモとかに入れておいて、「今日はどれを使おうかな?」という感じでいろいろ試してみると役立ちます。ゲームの例えが分かりやすい人は「どのアイテムを使おうかな?」みたいな感じです。やってみてダメなら別のものを試したりしてもいいです。試してみた自分をねぎらいましょう。いいのが思いついたり、人から聞いたりしながらリストを充実させていくのもおススメです。

今回も長文にお付き合いいただきありがとうございました。みなさんにとっていいストレス対処法が見つかりますように。

※この内容は以前ツイッターでもご紹介しました。ブログの更新報告の他、日々簡単に読めてちょっと役立つ心理学やセルフケアの知識をつぶやいています。興味のある方はフォロー頂けると嬉しいです。ツイッターでは要点をまとめて投稿しています。ツイッターはこちら@hajimewakasugi

参考文献など(もっと知りたい方に)

文献はなるべく専門的なものじゃなくて、一般的に読みやすいと思うものを挙げました。本文中はそのままの引用、というわけではありません。

文献1.クリスティン・ネフ&クリストファー・ガーマー(著)富田拓郎(監訳)(2019)マインドフル・セルフ・コンパッション・ワークブック ―自分を受け入れ、しなやかに生きるためのガイド― 星和書店

→最近自分や他者に「思いやりを向けること」(コンパッション)の健康効果がさまざまな研究で示されています。自分に対して思いやりを向けられるようになればいろいろな物事がうまくいくし、人にも優しくなれることが分かってきています。それは練習で身につくことです。実は自尊心や自信よりも「思いやりや温かさを向ける能力」の方が大切なのではないか、と言われてもいます。

文献2.フローレンス・ウィリアムズ(著)栗木さつき&森嶋マリ(訳) (2017)NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる 最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方 NHK出版

→自然って健康に良さそうですよね。これを読むとどうしてそうなのかが理解できます。今よりもっと自然の中で積極的に過ごしたくなるかも。

文献3.ケリー・マクゴニガル(著)神崎朗子(訳)(2012)スタンフォードの自分を変える教室 大和書房(文庫版:だいわ文庫)

→今回の内容と関係が深いのは、第5章脳が大きなウソをつく(p164-201)と第6章どうにでもなれ―気分の落ち込みが挫折につながる(p.202-232)あたりです。ちょっと長いですが、どの章も繰り返し読む価値のある内容だと思います。

※(専門家向け)参考文献/研究論文のリストは英語版にのみあります。Kelly McGonigal (2012) The Willpower Instinct: How Self-Control Works, Why It Matters, and What You Can Do to Get More of It. Avery, New York.

文献4.鈴木祐(2018)超ストレス解消法 イライラが一瞬で消える100の科学的メソッド 鉄人社

→ストレス・コーピング・レパートリーについてはp.289-297にあります。本全体がストレス解消法について書いてあるので、自分に合いそうな方法を考える時に役に立つかもしれません。

おまけ 米国心理学会のホームページを見てみよう

Stress in America

英語が苦手な方はGoogle Chromeなどでサイト全体を日本語に翻訳してみるとだいたいの意味はわかると思います。ストレスについての大規模調査研究は2007年からで、毎年レポートが出ています。2020年は新型コロナウイルスによるストレスへの調査や対策です(2020年4月24日から5月4日まで、3000人以上の成人へのオンライン調査)。

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