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心理学/ストレス対処

「不安をなくすにはどうしたらいいですか?」~不安に効く、4つの対処法~(よくある質問シリーズ1)

若杉さん質問ですー!はいはい、どうぞどうぞ。

私、不安にならないようにしたいんですけど…。不安をなくすにはどうしたらいいですか?

これって、ものすごくよく聞かれます。ちょっと調べてみると不安についての本や記事はたくさん出ています。「不安に打ち勝つんだ!」と言われたり、逆に「人生には不安がつきものじゃ…。不安を受け入れるがよい」と言われたりするかもしれません。しばらくはそうか…と思いつついろいろやってみたりするでしょうが、また気になり聞くのです。「不安を一瞬で消す方法!」みたいなのを何度試しても、うまくいかない人もいますよね。

「若杉さんは不安を消したくないんですか?」と聞かれて、「いや、僕は不安を受け入れて生きてるからさ(クールに)」とか言えたらいいのですが、それはないのです。不安感って落ち着かないし不快です。お腹痛くなるし。でも実は、不安にはいいところもあるんです。

どんな感情にも生きていく上で何かしら役立つ意味があります。楽しみや嬉しさなどのポジティブな感情だけでなく、怒りや悲しみ、不安などのネガティブな感情もそうです。感情の意味については進化生物学、脳神経科学、心理学などからいろいろな説明がされていますが、研究者によって少しずつ表現のニュアンスが違ったりします。このブログではよくこう言われていると僕が思うところを書きます。不安の意味や、じゃあどうやって不安と付き合ったらよいのか?ということについてです。

「不安」って何?

「不安」というのは、「この先何か危ないことが起こるかもしれないよ」ということを教えてくれるサインです(※文献1)。「だから、何か準備した方がいいよ」みたいなことです。信号で言えば黄色信号(もうすぐ赤になるよ)みたいなものでしょうか。でも何を準備したらいいかまでは教えてくれません。

例えば、試験の前の不安であれば「合格点がとれるかな?(とれないかもしれない)」みたいなこと。取れなかったら進級できないかもしれない、居残りさせられるかもしれない、誰かに叱られると思うかもしれない、将来に傷がつく、と思うかもしれません。人前での試合やパフォーマンスの前であれば「失敗するかもしれない」不安。恥をかくかもしれない、自信を無くすかもしれない、先につながらないかもしれない。将来への漠然とした不安は、「病気になって、貧乏で、孤独な老後が待っているかも…」みたいなことかもしれません。どういう状況で何を不安に思うかは、かなり人によります。

生物学的には元々、例えば原始時代に森を歩いていて「熊やライオンなどのかなわない猛獣に襲われるかもしれない」というような、命にかかわるような事態を想像する不安です。そうやって不安になることで「音に注意して慎重に進む」とか「武器をもつ」などをするようになったわけです(直接聞いたことないですが、たぶん)。

不安にならないためにはどうしたらいい? ~不安への4つの対処法~

じゃあ「不安になったらどうすればいいか、不安をなくす(減らす)にはどうしたらいいか?」というと、基本的には「準備する」ということです。

①できるものに関しては準備する(対処法①「準備する」)

試験前であれば勉強するということです。そりゃあそうですね。自分で勉強するだけでなく人に教えてもらうとかやり方は色々です。試合やパフォーマンスなら練習、地震や火事が起こる不安なら災害が起こった時に必要なものを備えたり、保険に入ったりします。

でも難しいのは、そういう不安な状況に限って結構準備したくないんですよね(笑)不安すぎていったん忘れたい。とりあえず友達と愚痴ったり飲みに行こう、お菓子でも食べてテレビを見よう、小説を読もう…。そうやって僕もよく先延ばししてしまいます(そういう現実逃避的に何かに夢中になる時って、意外とはかどったりしますよね。スタンフォード大学の有名な心理学者のケリー・マクゴニガルさんはそれを「生産的先延ばし」と名付けていたりします。※文献2)。でも当日が近づいてくるとどんどん不安になってきます。人によってはますます何もできなくなったりします。そういうことが何度も続くと自信がどんどんなくなってしまうことも多いです。ちなみに僕は修士論文のテーマが「先延ばし改善(認知行動療法)」だったのですが、それは自分自身がいつも困っているからで、論文自体、もうたくさん現実逃避しながら、先延ばししまくってなんとか書きました(笑)。

そういう時、まずは何をどうすればいいのか。たぶん、「何からやればいいのか、どういう手順や段階を踏んで準備すればいいか」の見通しがつかないということが原因のことが多いと僕は思います。どういう順で何をするかの計画を立てることがひとりで難しければ、計画を立てる時から誰かの力を借りたり、一緒にやるのもとってもよいです。友人や仲間と遊びながらでも準備できれば、少しずつ前に進んだり、見通しが見えてきたりしますから。そういう時は小さく具体的にステップを区切って、少しずつ前に進めることが大切です。やる気が出ない時は自分のやる気があがる食べ物や飲み物、環境、音楽などに頼るのもいいです。自分にとって集中しやすい環境を知っておくのもとっても役に立ちます。

不安になっていることに向き合って、準備したり、解決するための行動をとっていくことが基本です。ただ、不安の中には考えても「自分ではどうにもならない」というものもあります。

②考えてもどうにもならない不安は忘れる(対処法②「切り替え」)

どうして不安なんだろう?と考えて原因がわかっても、それが今の自分にはどうにもできなさそうな時には別のことに意識を向けて、気持ちを切り替えます。例えば試験を受けた後に「結果がどうなるのか」と思うような不安や、自分なりに十分準備をしてもまだ残る不安などです(※緊張については実は「ある程度した方がいい」と言われます。それについてはそのうち書きます)。終わった後の結果については「果報は寝て待て」ってやつですね。特に相手があること、会社などの組織のことなどについては、自分のできる範囲は限られていて、かなりの部分どうにもならなかったりします。不安を感じていることに気づいたら、まず「これって、自分にできることは何かあるの?」と考えてみると役立ちます。

「二ーバーの祈り」という有名な言葉があります(ご存知ですか?)。

「神よ変えることのできるものについてそれを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。変えることのできないものについてはそれを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。そして変えることのできるものと、変えることのできないものとを、識別する知恵を与えたまえ」(「二ーバーの祈り」:引用サイト

「まあそれはわかってるんだけど、ついつい考えちゃうんだよね」という人もとっても多いです(自分はそうだって人、きっとたくさんいますよね?)。考えすぎとか、心配性とかって言われているかもしれません。そういう人にとっては、たとえだいたい杞憂に終わるとしても考えすぎちゃうのが自然なこと。そういう時は「自分は考えすぎちゃうたちなんだよなぁ」みたいにまずそのことを受け入れてみるのが僕はおススメです。だってそういう考え方はそんなに変えられるものじゃないですから(少なくともすぐには)。それに心配性や慎重というのは、注意深かったり、たくさん準備をすることで今まで(生物として遺伝的に)生き残ってきた性格だからです。もしくは何かの大変な体験をしてから、いろいろなことを不安に思いやすくなったかもしれません(※下記おまけ)。あまりに考えすぎて動けなかったり、具合が悪くなりすぎるのは現実的に困るし辛いのですが、自分のそういう性格を受け入れたり、自分に合った準備の仕方がわかってくると少しずつ楽になってきたりするのは、相談の中でよく経験します。

③そもそも「生きていると不安になるものだ」(対処法③「受け入れ」)

というわけで、不安に対しては基本的には向き合って準備をしたり、どうにもならないときにはいつまでもそれを考えずに切り替えたりするといいのですが、最初に書いたようにそもそも不安を感じることは生物として自然です。だから不安をなくしてしまう、消してしまう、というのは生きている限りたぶん無理なことです。不安になるのは「準備のための機会」だと考えてみてもよいかもしれません。上には書きませんでしたが、不安になる状況(緊張する場面)というのは自分の人生にとって大事に思っている場面なことが多いです。失敗して困らないならたぶん不安にならないですから。だからある意味「頑張り時」でもあるということです。

④不安になりにくいライフスタイルを(対処法④「日々の習慣」)

とまぁ、こういう風に不安というのは生きていく上で自然なことですが、実は現代社会の生活の中には人の脳が不安になりやすい要素もたくさんあると言われます(※文献③)。例えば準備するにあたっては情報が多すぎると混乱しますよね。PCやスマホなどでネットやSNSの情報に触れすぎると人は落ち着かなくなり、不安が高まるとされます。睡眠不足や、運動不足、食生活の乱れ、自然とのふれあいの少なさ、孤立感などもイライラを高めてしまうといろいろな研究で言われています。最近はうつや不安の治療の中でも(特に軽症の場合は)まずは生活習慣を整えたり、運動や食事の改善が病院でも最初に勧められます(※文献④)。

逆に定期的な運動、瞑想やヨガやマインドフルネス、健康的な食事、規則正しい睡眠、スマホやPCを見る時間を減らすこと、自然や動物と触れ合うこと…、などは不安を減らすことに役立ちます。

さいごに

不安はとっても奥が深いテーマでなかなか書ききれませんが、今のところ僕が思うのはこんな感じです。

不安は「何か自分にとってまずいことが起こるかもよ。準備が必要かもよ」と教えてくれるサインなので、まずはそう教えてくれたことに感謝してみて(不安感に心の中で「ありがとう」と言ってみるのもいいですよ)、何か自分にできそうなことがあれば準備して、考えても仕方ないなら切り替えて他のことをしてみましょう。自分ひとりで難しければ、誰かに助けを求めるのもとっても大切です。僕も患者さんたちや相談者の方たち、それから身近な家族や友人達ともいろいろ話し合いながら不安とのうまい付き合い方を練習中です。

少しでも何か日常に活かせるヒントになればいいなと思います。では~。

※このブログの内容は全体的にそうですけども、通院されている主治医や相談している支援者がいる場合には、先生達ともご相談の上やってみてくださいね。

※この内容のうちのいくつかは以前ツイッターでもご紹介しました。ブログの更新報告の他、日々簡単に読めてちょっと役立つ心理学やセルフケアの知識をつぶやいています。興味のある方はフォロー頂けると嬉しいです。ツイッターでは要点をまとめて投稿しています。ツイッターはこちら@hajimewakasugi

※おまけ 「不安障害」について

何かしらの体験で不安を感じるセンサーが過敏すになりすぎて、ちょっとしたことですぐに不安を感じるようになってしまうと、不安障害と診断される状態であることがあります。パニック障害、社交不安障害、強迫性障害、PTSD…などがその中に含まれます。不安すぎて自分のできることや行ける場所が制限されすぎているならば専門家の力を借りてもいいかもしれません。不安を火災報知器のように考えると、ちょっとマッチで火をつけただけでも警報が鳴ってスプリンクラーが作動するようになってしまいます。自動的に身体や心が警戒モードに入ってしまうということですね。それはある場面では脳が身体を守るための自然な反応なのですが、それが平和な状況でも起きてしまうととっても辛いです。そのしくみを理解しながら、少しずつ不安のセンサーを調整していくようなことをしていきます。

参考文献(もっと知りたい方に)

文献はそこまで専門的なものじゃなくて、なるべく一般的にわかりやすいと思うもの、読みやすいと感じるものを挙げました。本文中は本からのそのままの引用、というわけではありません。

文献1.水島広子(2010)対人関係療法でなおす社交不安障害 創元社

→「不安という感情の存在意義」「不安障害という病気」(p.16-20)。例えがすごくわかりやすい本です。社交不安障害についての本ですが、他の不安についても書いてあります。ちなみにDSM-5という米国精神医学会による精神疾患の診断マニュアルの不安症群の項目にも「不安は、将来の脅威に対する予期」であるという説明があります。

文献2.ケリー・マクゴニガル(著)泉恵理子(監訳)(2016)スタンフォードの心理学講義 人生がうまくいくシンプルなルール 日経BP社

→「生産的先延ばし」についてはp26-33「時間管理術について」に書いてあります。

3.鈴木祐(2018)最高の体調 クロスメディア・パブリッシング

→進化医学の観点からうつや不眠、肥満、集中力の低下、慢性疲労、不眠、生活習慣病などさまざまな現代病がどうして起こるか、それを防ぐにはどうしたらよいかが日常に即して具体的に書いてあって面白いです。

4.ジョンJ.レイティ&エリック・ヘイガーマン(著)野中香方子(訳)(2009) 脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方 NHK出版

→著者はハーバード大学医学部で教鞭をとる精神科医で、精神疾患の治療や予防に運動がいかに重要かをいろいろな例をあげて説明しています。ちょっと分量が多くて読みにくい本ですが、読むとどうして運動した方がいいかがよくわかるし、普段から運動しとこうかなって思うかもしれません(そうだといいなぁと思います)。

他に、不安について簡単に読める本としては次の本もあります。

・マシュー・マッケイ&トロイ・デュフレーヌ(著)堀越勝&樫村正美(訳)(2017)30分でできる不安のセルフコントロール 金剛出版

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